東京地方裁判所 昭和31年(ワ)8479号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕本件土地は原告等の先代吉岡忠次郎が被告森佐重郎に対し、建物所有の目的で、賃借人が賃借権を転貸もしくは譲渡する場合は賃貸人の書面による承諾を要し、これに反する場合は催告を要せず解除できる旨の特約を付して賃貸していた土地であるが、原告らは、被告森佐重郎が昭和二六年頃原告らの承諾を得ないで被告株式会社森製箱所に転貸し、同会社がその上に本件建物を建築所有するに至つたので、この無断転貸を理由に前記特約に基いて契約解除の意思表示をし、また右解除の理由がないとしても被告森佐重郎が昭和三〇年六月一日から賃料の支払を怠つていることを理由に契約を解除したことにより賃貸借が終了したと主張して、被告らに対し建物収去土地明渡および延滞賃料、損害金などの支払を求めた。
被告らは、前記特約はいわゆる例文にすぎないと争いまた被告森製箱所に対する転貸については原告らの先代吉岡忠次郎が承諾を与え、あるいはその後原告らのうち忠次郎の妻たる原告吉岡たまが被告森製箱所の転借に承諾を与えたとみるべき事実があると争つたほか、被告森製箱所は被告森佐重郎の個人営業を会社組織にしたもので、被告佐重郎が代表取締役その子森富治が取締役となつているほか一族のみで組織されていて、事実上被告佐重郎が主宰する個人会社であつて、本件土地を転借するといつても、被告佐重郎が使用している実質においてかわりがないから、このような場合は地主の承諾は不要であると抗争した。
判決は、本件土在の被告森製箱所への転貸について原告らの先代または原告らの承諾があつたと認めるに足る事実はないと判断したが、被告らの抗弁に関し、標記一、二の点についてそれぞれ次のように判示した。曰く、「……原告らは本件土地賃貸借契約においては本件借地の転貸については賃貸人の書面による承諾を要する旨の特約が締結されていると主張し、成立に争ない甲第二、第三号証の記載によれば、本件の契約書にその文言があることをうかがい得るが、賃貸人の承諾をとくに書面によるべき旨の特約はなんらか特別の事情のない限り、契約の一方当事者のみに不利益なもので賃借人と賃貸人との権衡を破るのみならず、賃貸人の承諾の有無の認定を書面によるのほかは許さないとする点において民事訴訟における自由心証主義に反することとなるから無効というべきである。」
「……個人営業を法人組織に変更してしかも実質上はその個人経営となんら変りがなくとも、いやしくも法人が設立された以上は会社とその構成員とは別個の法人格であり、その構成員の人的関係がどうであれ又その設立の実質的目的が何であれ、会社は設立当初の設立者の意思を超え客観的に独立した別個の存在となることはもちろんであつて、殊にいつたん株式が譲渡されれば直ちに社内勢力関係も変更し、場合によつては実質的にも全く従来の実権者の手をはなれ、いわば第三者により支配されるにいたることは当然予測されるところであつて、会社がその代表者個人の賃借物件を自から使用することはその代表者の賃借権の範囲内での使用にとどまるものではなく、これについて賃貸人の承諾を要しないものとは解することができない。その他とくに本件において転貸につき承諾を要しないとすべき特別の事情の認めるべきものなく、また賃貸人の承諾を得ない転貸でありながらなおかつ当事者間の信頼関係を破るものと認められないような特別の事情のあることはこれを認めるに足る証拠がない。よつて被告らの主張は理由がないといわなければならない。」